大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋家庭裁判所 昭和63年(家)11号 審判

申立人 古川賢二

事件本人 養子となる者 古川紗緒里

事件本人 養子となる者の父 牧野順一

主文

本件申立てを却下する。

理由

1  申立人は、「事件本人古川紗緒里を申立人古川賢二の特別養子とする。」との審判を求めた。

2  本件記録によれば、以下の事実が認められる。

(1)  事件本人の実母春子(昭和34年1月16日生、当時の氏、大木戸、以下事件本人の母という。)は昭和54年5月10日事件本人の実父牧野順一(昭和31年10月20日生、以下事件本人の父という。)と婚姻をし、昭和57年9月10日事件本人を儲けた。事件本人の父は昭和54年○○○○○大学を卒業して就職し、昭和59年頃から○○会社に勤め、月収15万円以上を得ていた。事件本人の父母は不仲となり、昭和59年10月30日事件本人の親権者を事件本人の母と定めて協議離婚をした。事件本人の母を親権者と定めたのは、事件本人の父に幼児である事件本人を養育することができなかつたからである。上記離婚の際、事件本人の父母間に、事件本人の養育費を一か月少なくとも3万円とする旨の協議が調い、事件本人の父は母に離婚後一か月3ないし5万円を送金していた。ところが事件本人の母は昭和60年1月頃事件本人の父に養育費の送金をことわつた。

(2)  申立人(昭和36年10月28日生)は、○○大学○○学部を卒業して昭和59年4月○○○○用品販売業を営む○○○○○○に就職し、その職場へ就職した事件本人の母と知り合つた。申立人と事件本人の母は交際を始め、昭和60年1月から同棲し、事件本人も申立人と生活を共にするようになつた。なお、申立人は昭和60年2月から○○○○用衣類のデザイン製造を業とする○○・○○株式会社に勤めをかえた。

(3)  申立人と事件本人の母は昭和60年6月6日婚姻をし、昭和61年2月5日長男勇一を儲けた。申立人は昭和60年6月6日事件本人の法定代理人親権者(事件本人の母)春子の承諾を得て事件本人と養子縁組をした。

(4)  申立人、事件本人の母、事件本人、勇一は申立人の肩書住所地の賃貸マンション(3DK)に居住している。申立人は現に上記○○・○○株式会社に勤務し、月収手取18万円程を得ている。事件本人の母は、家事、事件本人及び勇一の育児、車の運転による申立人及び事件本人の送迎をしている。事件本人は昭和63年4月から○○保育園の年長組に入り、健康で、申立人によくなついている。

(5)  事件本人の父は昭和62年4月から○○○○に勤め、月収手取17万円を得、一人ぐらしをしている。

(6)  事件本人の父、母は、申立人と事件本人との特別養子縁組の成立に同意をしている。

以上の事実によれば、〈1〉事件本人は申立人の妻古川春子(事件本人の母)の嫡出子たる実子(連れ子)であること、〈2〉申立人はすでに事件本人と普通養子縁組をしていること、〈3〉事件本人の母は、申立人の妻として、申立人一家の家事育児等に従事していること、従つて、申立人の月収手取18万円程は申立人夫婦の共同生活の経済的基礎を構成するものであるから、実質的意味では、申立人とその妻(事件本人の母)との共有に属するものとみなければならないこと、が認められる。従つて、申立人の妻である事件本人の母は特別養子縁組ののち引続き特別養子となる事件本人を監護すべきこととなるから、民法第817条の7に定める「父母による養子となる者の監護が著しく困難又は不適当である」場合にあたるとはいえない。そして上記事実に本件記録に現われた一切の事情を考慮すると、民法第817条の7に定める特別の事情があるとは認め難い。そうすると、本件においては、民法817条の7に定める特別養子縁組の必要性が認められないから、本件申立てを却下することとし、主文のとおり審判する。

(家事審判官 竹田國雄)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例